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漢方民間薬雑学ノート(5) 2006. 01.31

JA千葉厚生連 医師 中村常太郎

 前々回のこの欄で、気(き)、血(けつ)、水(すい)のうち気について簡単に述べた。血、水についても少し触れないとバランスを欠くので概略を述べたい。
 
  血の量に不足をきたした病態を血虚といい顔色不良、眼精疲労、こむら返り、めまい感、頭髪が抜けやすい、爪の異常、月経不順、等々の病状を呈する。この病態を改善する方薬(漢方製剤の処方をいう)を補血剤という。
 
  時に婦人の聖薬と呼ばれる四物湯(しもつとう−地黄・芍薬・川きゅう・当帰)は、血虚を改善する基本的方剤できゅう帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)−不正性器出血、痔出血、尿路出血などに使用−などは、対象となる疾患の成因に血虚があると考えられ、四物湯にさらにいくつかの生薬を加えた組成になっている。
 
  血の流通に障害を起こした病態をお血(おけつ)という。流速の低下、うっ滞、途絶、出血などである。お血の成因には、外的ストレス(寒、湿、熱)、打撲、手術などの他に、精神的ストレス、運動不足、高脂肪、高蛋白食、便秘などがある。お血の症候は、精神身体症状として不眠、嗜眠、精神不穏、顔面の発作的紅潮、筋痛、腰痛などがある。他覚症候は顔面の色素沈着、眼のまわりのクマ、口唇・口腔粘膜の暗赤紫化、毛細血管拡張、臍傍、下腹部の圧痛などである。お血を改善する方剤を駆お血剤といい、桃核承気湯(とうがくじょうきとう・桃仁(桃のタネ)、桂友、大黄、甘草、芒硝)、桂枝茯芬丸、抵当湯、当帰芍薬散などがある。
 
  最近の話題の中で、飛行機旅行で発症するエコノミー症候群というのがある。長時間窮屈な姿勢で座っていることから起こる下肢静脈の血栓症で、血栓が肺まで及ぶと肺梗塞まで進展する。漢方医学的にはこれもお血の代表的疾患である。軽症であれば、桃核承気湯や時に抵当湯(ていとうとう)が効くのではと考えているが、実験例がないのでこれ以上の論及は控えておく。
 
  最近の医療現場では、カテーテル(管)を使った血管内からの手術(インターベンション治療という)、真っ盛りである。例えば心臓の冠状動脈の閉塞や狭窄(心筋梗塞、狭心症)に対する経皮的冠状動脈形成術などである。この際、上肢または下肢の動脈からカテーテルを抜いたあと、止血が不十分だとかなりの皮下出血斑(血腫)を作ってしまうことがある。血液の漏出がとまっていれば、放置しておいても徐々に吸収されるが、桃核承気湯を内服すると明らかに短期間で血腫が消失する。残念ながら優秀な循環器専門医でもこのことはあまり知らない。
 
  ただ、これらの方剤は、漢方的な診断(適応)を理解したうえで(これを証を診るという)使用すべきであり、何でも使えるというものではない。なおここで一言付け加えておくと、エコノミークラス症候群や、動・静脈の血栓症に対して、現代医学には、予防も含めてすぐれた治療法がある。従って、一般的には漢方の出る幕はあまりないが、時には漢方の妙味が発揮できるときもあると筆者は考えている。
 
 ※抵当湯(または抵当丸)について
 
  これはちょっと変わった漢方である。組成は、水蛭(蛭−ヒル)、虻虫(虻−アブ)、桃仁、大黄からなっている。蛭も虻も動物(人間も含めて)の血を吸うときに血液が凝固しないような物質を出す(蛭の場合はヒルイジン)。従ってこの方剤は古く固まった血をとかす作用があるとされていて、お血が原因で起こる疾患に幅広く適応がある。ただし、エキス剤はなく保険でも認められていないため、現在これを使う医師はほとんどいない。抵当丸は水蛭、虻虫各1.5g、桃仁1.0、大黄3.0の割合で混合して末とし、蜂蜜で丸薬としたものである。筆者は、約30年前、ある婦人の下肢の深部静脈血栓症に抵当湯を作り、試用してみようと思ったが、内容を説明した結果、服用を固辞された思い出があり、残念ながら使用経験はない。
 
つわぶき
 
  漢方の大家、大塚敬節氏(故人)が横山大観画伯を診察した際に、直接聞いた話として以下の一文がある(昭和13年)。
 
  あるとき築地の料亭に東都の名医が集まったが、その中には塩田広重、南大曹など一流の名医が数人まじっていた。そのとき料亭の仲居さんが指を雨戸にはさんで、ひどくはらし、泣かんばかりに痛がった。これを見た画伯は、自宅からつわぶきを取り寄せ、葉を火であぶって、もんでから病む指にまいてやった。すると驚いたことに、たちまち痛みが軽くなり、一時間後には痛みを忘れてお座敷に出られるようになった。この様子を見た名医たちは、どちらが医者かわからぬと大笑いしたという。
 
  つわぶきの葉を熱湯につけてやわらかくしたものをやけどの患部にはり、その上を包帯で巻くだけで、かなりひどい(2度以上)火傷でも、すぐ痛みが取れ、化膿もせずに後を残さずに治癒するという。

JA千葉厚生連 医師 中村常太郎
JA千葉厚生連 医師 中村常太郎
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