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漢方民間薬雑学ノート(10) 2006. 06.30

JA千葉厚生連 医師 中村常太郎

 以前にこの欄で漢方における五臓の概念を述べたことがある。今回は、そのなかで腎の機能の衰えを目標に使用する方剤の代表的な薬方である八味丸について書くことにする。
 
 この薬方は、地黄が入っているため、八味地黄丸とも、腎の陽気を鼓舞するの意で腎気丸ともいわれる。ここでいう腎は現代医学の腎臓とは異なるが、大ざっばにいうと、現在の腎臓と副腎、生殖器を合わせた機能単位と考えればおおよその用が足りる。
 
 腎の失調状態には、腎の陽気の衰え、腎の陰液の衰え、腎の陽気と陰液の衰えの3通りがあるが、詳しいことは省略する。
 
 八味丸は下半身の疲労脱力、多尿、頻尿、逆に尿利減少、尿の淋瀝、腰痛等を目標として用いる。手足に煩熱(ほてること)を訴えることがあるが、冬期には手足の冷えを訴えることもある。口渇またはロ乾を訴える。本方の患者には、消化器障害のないのが特徴で、食欲不振、下痢、悪心、嘔吐などのあるものには用いない方が良い。またこれを用いて、これらの症状を訴えるものも、本方の適応ではない。
 
 八味丸の腹証には2つの型がある。1つは小腹不仁で、1つは小腹拘急である。前者では臍下が脱力して抵抗が無い。後者は腹直筋が恥骨の付近で硬く突っぱっている。
 
 ただ、時にはこれらがわかりにくいことがあり、下肢の浮腫も1つの目標として良い。本方は老人に応用する機会が多い。本方を構成する、地黄、山茱萸、自然薯(やまいも、山薬という)には、強壮、強精、滋潤の効があり、茂苓には強壮、鎮静、利尿の効が、択瀉には利尿、止渇の効が、牡丹皮には血のうっ滞を散じ鎮痛の効があり、これらに配するに、諸機能の沈衰を鼓舞する桂枝と附子がある。
 
 そこで本方は、膀胱炎、前立腺肥大、腎炎、高血圧症、糖尿病、脳出血、陰萎、尿崩症、腰痛、座骨神経症、産後または婦人科の手術後の尿閉または尿失禁。その他、遺尿症、白内障、難聴など応用範囲は広い。八味丸に牛膝、車前子を加えたものを牛車腎気丸(ごしやじんきがん)と言い、腰痛などの激しい場合に使用する。
 
 ところで、筆者が八味丸についてその偉力を知ったのは、ちょっと特殊な疾患についてなのである。動脈硬化症が原因の閉塞性動脈硬化症というのがあり、動脈に狭窄が起こる。下肢動脈の狭窄の程度により間軟性蹟行という症状が起きる。これは下肢の循環が不良のため、少しある距離を歩くと下肢が痛くなり歩けなくなる。少し休むとまた歩ける。
 
 これに本方が良く効く。最初に試みたのは、もう30年ぐらいも前であったが、80歳近い男性、知り合いの看護師さんの父親であった。有名な漢方医の大塚敬節氏の著書に、間歇性跛行に八味丸が効くと書いてあった。半身半疑で処方したところ、著効があったのである。その後も何例かに使用し、高率に自覚症状の改善を見た。なお、間歇性跛行は脊柱管狭窄症という疾患でも脊髄が圧迫されることにより起り得るが、これにも時に良く効くことがある。しかし、最近は狭窄部には動脈バイパス手術やカテーテルによる拡張術が普及するとともに、プロスタグランディン製剤等効果のある薬剤も出てきたため、必ずしも八味丸の出番は多くない。
 
 本方に関しては、最近、心不全の患者で尿の不利の著明な改善を見た例を経験したが、紙面の都合で次回にゆずりたい。
 
 山の芋、自然薯
 
 ここに述べたように八味丸の組成の一つである。漢方では山薬と呼ぶ。薬用部位は根で、薬効は滋養強壮、はれもの、やけど、せき、健胃整腸、歯痛などとあるが、一部を略し、咳には、おろして、砂糖を入れ、熱湯を注いで熱いうちに飲むと良いという。健胃整腸としては、衆知の如くとろろ汁にして食べると消化を助け、下痢を止める効がある。
 
 おろして、これにとうがらしの粉末を少し加え、歯痛のある側のほほに張りつけると歯痛が軽くなると言う。

JA千葉厚生連 医師 中村常太郎
JA千葉厚生連 医師 中村常太郎
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