JA千葉厚生連 医師 中村常太郎
臨床の場における陰陽と虚実
前回は陰陽、虚実について記述したが、実際の臨床の場においては、時としてその判定がなかなか難しいことがある。今回は、ごく最近、筆者自身の診断が適確でなく、大変な廻り道をした例を経験したので、そのことについてお話したい。
血圧の異常その他循環器疾患の患者さんの中には、起立性調節障害、即ち立ちくらみを訴える人が時々みられるものである。元々、低血圧の人に多いが、高血圧の人でも、また、降圧剤の副作用でこのような症状が現れる場合もある。この立ちくらみに筆者が最も頻用する処方が苓桂求甘湯である。その名のごとく、茯苓、桂枝、蒼求、甘草からなり、陽証(小陽病期)、水滞型、虚証の病態が対象となる。非常に使い易い薬で気寝に使用でき、しかも良く効く。
ところで、筆者が縁あって数年来診ている高血圧の患者さんのことである。名刹のご住職で堂々たる体躯の紳士である。日常は、かなり多忙に活動されている。
この方が、約1年前頃より時々目まいを訴えるようになった。降圧剤は3種類ほど、比較的強目の薬剤を服用しているが、それでも血圧はやや高目(上は146〜150程度)で推移している。便通は全く正常で、冷え等は見られない。どう見ても陽実証である。この目まい(時に立ちくらみもあり)に対して、しばらくこの苓桂求甘湯を処方した。少しは良いかと思われたが、それほどの改善はなく、時にはのぼせもあることから黄連解毒湯を、さらには別の漢方薬も試みたが、いずれも明らかに効いたという感じはなかった。
かなり考えた未、下肢に軽いむくみもあることから、試みに、本来は除虚証の方剤である真武湯を処方した。「今度の薬は明らかに良く効きました」。次に見えた時の第一声であった。もっと早く使って見ればよかったと反省したことであった。
真武湯は、茯苓、蒼求、芍薬、生姜、附子から成っている。元の名は玄武湯といい、北方の守護神である玄武神の名をかりて名づけられたものである。中国古代の思想では、北方は陰の象徴であり、水にあたる。従って真武湯は陰の治剤であり、水を治める方剤である。玄武湯の名は重要な意味を持っているのである。この方剤の正証は、一番多いのは下痢ということになっている。一見陽実証に見えても、食事のあとすぐ下痢をする。油っ濃いもので下痢し易いなどの人には、この方が良く効く例が多い。
しかし筆者の例のように、下痢がなくても、又寒が認められなくても、良く効く例があることを改めて知らされる次第であった。一般的には低血圧傾向で、しょっちゅうフラフラする、寒がりである、下痢し易い、顔色が悪い等があれば、最初に試みて良い薬方である。
栗の効用(薬用部位 葉、木皮、夷、いが)
- 皮フ炎
うるし、毛虫などにかぶれた時には、葉を一ぎりほどとって煎じ、その汁で患部を湿布する。特にうるしかぶれに良く効くという。
- 魚の中毒
イワシ、タコ、イカなどの中毒には、生栗を渋皮のまま噛み砕いて、吸っていると良いという。
- 毛生え薬
空き缶のふたのあるものに、いがを入れ、黒コゲにし、冷めてから粉末にする。ごま油一合の中に、いが10個分の粉末を入れよく混ぜ合わせ、1回に茶さじ1杯くらいずつ、1日に2、3回、頭の地にすり込む。頭髪を濃くすることうけ合いという。
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