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漢方民間薬学ノート(13) 2007. 09.13

JA千乗厚生連 医師 中村常太郎

 この拙文が読者のお目に入る頃は、少しは涼しくなっているかも知れないが、この夏は異常に暑い日が続いている。熱中症で病院に運び込まれた人も多かったようである。
 
  熱中症とは、高温環境下で体内の熟の放出がうまく行えず、生理的体温調節機構が破綻して生ずる熱性障害の総称である。
 
  一般的には、日射病も熱射病も同じ様な意味で使われているが、専門的には、比戟的軽症の熱性けいれんや熱疲労と、重症な熱射病として分類しているようである。いずれにせよ、初発症状としては強い口渇と発汗が見られる場合がほとんどで、この時点で水と塩分の補給が最も重要である。
 
  目安としては水500ミリリットルに食塩5グラムを入れて飲ませる。ナトリウム欠乏症の脱水だと、筋肉痛や筋けいれんをきたす。勿論、できるだけ早く身体を冷却する必要がある。重症まで行ってしまうと、多臓器不全で死亡する場合もあり、専門医の治療を要する。ところで、熱中症の漢方治療となると、我が国では報告例や詳しい記述が非常に少ない。
 
  多くの名著として広く知られている漢方の教本にも、熱中症の記載はまれと言って良い。
 
  ここに、白虎加人参湯という漢方がある。これが、この熱中症に対して、使用時期を誤らなければ非常に有効であろうと、筆者はかなり以前から確信に近い考えを持っている。なぜかと言うと、私自身、50年以上前の高校生の時に、北アルプスの登山中に日射病となり、あわや倒れる寸前までいった経験があるからで、その時の症状がまさにこの薬方の証そのものであったからに他ならない。この薬方は、ツムラ、小太郎、その他のメーカーからエキス剤が出されている。
 
  しかし、医療向けに出されている簡単な治療指針−手帳−を見ると、ツムラでは効能効果として「のどの渇きとほてりのあるもの」とだけで、使用目標−証―として、「比較的体力のある人で、身体がほてり、口渇のある場合に用いる」となっている。小太郎漢方の手帳では、「むやみに咽喉(のど)が渇いて水を欲しがるもの、あるいは熱感のはげしいもの、糖尿病の初期、暑気あたり、熱性疾患」となっている。推察するに、漢方に詳しい医師ならば、白虎加人参湯の適応として日射病もあることを知っている方は多いと思う。
 
  ただし、この漢方は元々そう頻用される薬ではなく、現在の臨床の場では、糖尿病で口渇の強いもの、発汗の多いもの、流感等で著しい口渇と発汗・悪寒がある場合、その他、口渇とかゆみの強い皮膚疾患等に使用されることが多い。
 
  ところが、筆者が以前この欄で紹介したことのある、漢方のバイブル的存在である『傷寒論』と『金匱要略』にはこの漢方が記載されており、殊に金匱では、白虎加人参湯が日射病の主治となる漢方として解説されているのである。
 
  簡単に紹介すると「痙湿喝病豚證治第二」という章があり、痙はけいれんを起こす病気、破傷風など、温は水でリュウマチ等を指すが、喝(え卓)というのが日射病のことである。この項では、太陽中喝、発熱悪寒、云々と日射病の症状を述べた後「太陽中熱者、喝是也、汗出悪寒、身熱而渇、白虎加人参湯主之」。白虎加入湯方、知母六兩、石膏一斤辞(現在の処方は15グラム位)、甘草二兩、粳米6合、人参3兩・・・とある。
 
  知母は、はなすげの根茎で石膏とともに清熱止渇に働く。粳米は玄米のことである。
 
  千数百年前に編纂された金匱要略に白虎加人参湯方は日射病の主治となる漢方として記載されているのである。かなり以前のことであるが、筆者は梅雨の明けたばかりの暑い日にゴルフに行ったことがある。昼近く同行の一人が、口渇、発汗がかなり強くなっていた。
 
  この漢方を1包だけ持っていたので服用させた。
 
  しばらく休んで昼飯も食し、午後もプレイできたがこれだけでは薬が効いたかどうかは明言できない。機会があればもう少し試してみたいと思っている。

JA千葉厚生連 医師 中村常太郎
JA千葉厚生連 医師 中村常太郎
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